H3-MoM_H³ 第20回:医療経営超入門_20190221
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2019年2月21日(木)19:00-21:00 @ 日本橋ライフサイエンスビルディング
(H³ 第20回:医療経営入門)
【開催概要】
講師
2005年に財務会計系コンサルティング会社にて法的整理やM&Aを伴った再生支援業務に従事。支援先企業であった事業会社へ転生し、実行部隊として指揮を執り、2年間で黒字化を果たす。
2009年にキャピタルメディカへ入職。医療機関に対するファイナンススキームの構築及び経営再生実務の実行まで医療機関の再生に関わる業務を幅広く経験しており、多数の実績を挙げている。現在は、マネジメントとして複数の医療機関の再生案件を管掌し、病院機関再生人材の育成や医療機関再生実務の可視化を行っている。
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【概要】
【イントロ】
2030年には、医療業界は従事者ベースで日本最大の産業になる
ただ、医療業界ってよく分からない。病院経営となるともっと分からない
本セミナーのゴールは、①医療経営のポイントが理解できる、②医療業界にとってのビジネスチャンスが分かる
キャピタルメディカの支援先は全国22病院、介護付き有料老人ホーム施設も複数運営している、医療介護経営支援事業を行っている。事業範囲は幅広く、医薬品の調達から人材採用、病院不動産の流動化まで幅広くやっている ryosukick.icon参考
【医療業界の現状】
高齢化率は2050年まで増え続ける。国民医療費は40兆円を超え、さらなる成長を控えている状況。一方で、同時並行で生産年齢人口の縮小に伴い、医療現場の担い手は今でさえ少なく、今後更に深刻化する。採用費だけでも年間数千万円に及ぶ病院も存在する。 フリーアクセスの課題としては、風邪の患者でも大病院にかかれるという弊害があった。昨今ではフリーアクセス自体は変えず、大病院での外来初診には別途自費負担を設けるなどし始めている
ryosukick.icon参考
病院の数は8,399,診療所で101,777。病院と診療所の違いは入院施設、もっというとベッドの数が20以上あるかそうでないか。病院の運営主体は圧倒的に多くが民間の医療法人。残りが国公立や赤十字などの公的機関。 全国レベルの病床数は平成元年以降基本横ばいから減少傾向。病床数は都道府県認可による総量規制がかかっており、新規認可はほぼない。ただ、昭和60年〜平成元年の総量規制前に駆け込み増床された20万床が建て替えの時期にさしかかり、同じく経営環境の強烈な変化があり、経営支援のニーズが顕在化している グループ病院数ランキングを見ると、トップの徳洲会をはじめとする上位10グループでも全体の3%程度しかない、非常に担い手が分散している、中小法人だらけの業界構造にある。
標榜診療科ベースで見た一般病院数は、精神科や眼科は大幅に増加したが、産婦人科や外科は減少傾向。減少の背景としては、患者側の様態急変による業務過多や医療過誤訴訟リスクなどから敬遠されている 赤字病院の割合は2010年以降拡大し続けている。ただし、医療法人はとはいえ民間運営の原則なので、赤字は20%強。一方、公的病院の殆どは赤字と、同じ報酬制度下でも経営状況は大きく異なる。
医療機関の倒産件数は平成になって以降増えている。なかには破綻金額も200億円規模のものもあったりし、病院以外の大きな取引先がないような地方銀行や地域経済へのインパクトも大きい。
【病院事業の特性】
制約の存在と制約の変化(医療制度、診療報酬)
ルールがガチガチに決まっている中で事業運営する難しさがある。経営戦略を考える人は診療報酬の詳細まではわからないし、逆もまた然りになりがち。ただし、診療報酬コンサル=経営コンサルではない。例えば、急性期一般入院基本料の基準厳格化により、患者状態を入院基本料に反映されるようになったが、このことの診療報酬上の意味と病院運営上の意味を両方理解できる人は希少な状況。 https://gyazo.com/a16f3af07b11c66e9640add486f0bbc2
労働集約的かつ固定費(設備投資)先行型の事業モデル
費用の過半を人件費が占める。病床区分によるが対売上高比率で56-63%くらいになる。 設備投資も高額。MRI最新型のモデルは定価8億円、そこから半値半額という謎の交渉が入るが、病院経営側はそれが相対的に高いか安いか、費用対効果が合うのか、という判断がしづらい状況にある 建築コストも高額(特に2020年まで)。100床くらいのケアミックス病院でも15億前後は建築費等で必要。 「私」であり「公」である
医療法人は民間法人だが、非営利。駐車場一つとっても、入院患者に関わるものは良いが、そうでないとダメ等。かつ、剰余金の分配(配当等)はできない。一方で、MS法人と呼ばれるオーナー個人会社であれば営利事業もできるなどのダブルスタンダードも存在している。 専門家集団でコンセンサスが取りづらい
医療・病院の起点になるのは医師だが、そのキャラクターも千差万別(全員共通なのは偏差値が高いことくらい)。内科と外科ではパーソナリティも違うし、同じ科のなかでも考え方は様々だったりする。
業界の課題として、優秀な事務方人材が集まりにくい。もっと率直に言うと冷遇されている。学ぶ場も少なく、「経営セミナー」にいっても、診療報酬しか学べず、体系的に経営を学ぶ機会に恵まれていない。
【病院再生概論】
病院の業績悪化・困窮要因はさまざま。制度変更による環境変化、人材のマネジメント、設備投資の失敗などなど。
病院は事業が継続してこそ価値がある。倒産してしまえば、そこで働いている人も、地域の人も困る。都道府県からの追加での病床認可がほぼない現代に、仮にある病院がなくなったとしても、新しく病院が参入することはほぼなく、そこで働くひとや便益を享受してきた地域だけが割を食うことも。
病院再生に必要な視点は、事業競争力の再生、経営体制の再生、財務基盤の再生。なかでも「何をやるか」ではなく、「誰がやるか」にあたる経営体制の再生は重要。
病院の事業価値の根源は、地域からの医療ニーズにどう答えるか。一般的なマネジメントの言葉でいえば、マーケティングの視点だが、それが根本的にかけている場合が多い。地域のなかで当院がどのような強みや期待があり、それにどう答えていくか。独りよがりでないポジショニングの把握と、リソースの集中が重要。
【ケーススタディ】
ケースの前提条件
許可病床数200床の小さな総合病院、外来患者は300人/日、病床区分は10対1,50床は回復期
1964年に開設、その後増築を繰り返し、2014年に資金繰りが逼迫
医業収益は28億円、医業利益は2億円の赤字。病床稼働率は78.8%(前年比減)、入院単価は39,400円。
医療業界は夏冬の賞与が4ヶ月分でる慣行があり、この病院でもその賞与資金が払えない恐れあり、役員保険を解約。
オーナー理事長兼院長は苦悩。事務長しか頼れる人がおらず、その事務長からもいきなり「お金が足りません」と言われ、更に苦悩。
再生シナリオの策定
再生シナリオを組む際に重要なのは、債権者との握り、経営陣の覚悟とコミット
再生シナリオのポイントは、
顧客確保(集患)のアクション
病院ソフト&ハードとの適合性
2025年以降まで含めた将来ビジョン
事業価値を実現するためには、病院の理念や地域の方々のためにということをきちんと唄うことが重要。医療現場の人のモチベーションは患者さんや地域のためにというものが極めて強く、そのために経営としてどうあるべきかを示す必要がある。
再生シナリオの概要
再生のメインシナリオは、以下の三点。地域でのポジショニング分析を行った結果、高度急性期は担えないという限界を認識しつつ、一般急性期・回復期への選択と集中を行う。
病床機能の再編
リハビリテーション部門の拡充
地域連携室の強化
戦略を実行する組織の再編も重要。医療法人のガバナンスは民間とは違い、株式会社でいう株主が社員、取締役会が理事。出資金なくとも社員にはなれたり、剰余金の分配はできなかったり、株式会社とは明確に異なる点も。キーマンとなる理事長、院長、看護部長、事務長に対して、どういうアクションを求めるか。経営責任を求めるか、今後の再生において必須か否か。言い訳をする経営者もいる。経営者一族での争いも非常に多い。 このケースだと、理事長は院長を降り、看護部長・事務長も交代し、次世代へのバトンタッチを行った。そして経営会議を組織し、合議で意思決定をするスタイルにし、所属長向けの説明会や課題の吸出しを行った。
これまでは属人的に決まっていた転帰についても、入院後の転棟フロー(一般病棟→地域包括ケア病棟、一般病棟→回復期リハ病棟)を明確化し、それを決定する会議体も作った。 リハビリスタッフは7名で55名まで6年かけて増やしていった。収益向上はもちろん、リハスタッフは若手が多いので、副次的な効果として組織の活性化につながった。
地域連携室の強化:正直、もともとは機能していなかった。そこにエース級の看護師を登用し、モチベーションを持たせて、外部の医療機関と連携させた。
結果、入院患者数も1.5倍、医業利益も黒字化した。今では再生のフェイズを超えて、次のステップとして介護への進出や、一部診療科に特化した急性期性の強化などを議論している
【Q&A】 from sli.do
Q. 医療現場の人材不足が深刻なことがよくわかったのですが、病院経営の現場にいらっしゃる方がすすめている①採用、②離職防止のための施策の例を教えてください
A. 採用のための施策は広範に渡るが、意外とやっていない病院が多く、かつ効果もあるのが自院ウェブサイトの制作・運用。病院のなかで働いているキーマンの顔が見えていない、考え方が出ていない、あるいはまともなウェブサイトそのものがないという状態で、採用候補者の応募は進まない。経営・運営コアメンバーの考え方をきちんと情報発信することは極めて重要。
Q. なぜ民間企業なのに病院を経営できるのか?
A. 医療法人は非営利だが、民間法人。詳細は本編で触れた通りだが、日本の病床数のほとんどは医療政策の歴史的経緯もあって、民間の医療法人/個人事業主によって運営されている。
Q. なぜ医療グループでは大規模組織にならないのか?調達などで規模の経済が働き病院の経営効率化があがると思うが?
A. 中小企業同士のM&Aと同じような課題感で、そもそもオーナーが手放そうとしない、事業拡大意欲のある法人や経営者ばかりではない、というのが大きい。ただ、病院の場合はそこに都道府県による病床許認可という問題もあり、経営体同士が納得していても、許認可主体である都道府県がOKでないと進まない。特に都道府県をまたぐ広域M&Aの場合にはこの辺りの事情が複雑になることも一つの要因。
Q. 医療機関が提供するサービスには必ず診療報酬が支払われるので赤字リスクは低いように感じるのですが、なぜこれほど赤字になるのでしょうか? A. 他のビジネスと比べて、診療報酬に基づく公定価格であり、かつ売上債権が保険者という信用力の高い組織になるため、売掛金回収リスクが少ないという意味では経営しやすい。ただし、そのことと事業全体の収支バランスが取れることとは別。医療機関としてあるべきリソース配置や将来に向けた投資をやっている場合は、健全に経営していても企業でいう営業利益が数%でれば良い、という水準が診療報酬のリアリティ。
Q. 株式が存在する民間企業は株主総会、取締役会が意思決定の場となるガバナンスだが、株式が存在しない病院の意思決定ガバナンスはどのようになっているのでしょうか?
A. 本編でも触れた通り、社員総会と理事会がガバナンスの鍵となる。